https://www.youtube.com/watch?v=sGZlP3IbYIs
http://db.netkeiba.com/race/201409030805/
乾きつつあったとはいえ、稍重の渋い馬場となりましたが、外から捻じ伏せにいく横綱相撲で、2着トーセンバジルの追撃も抑え込み、初陣を飾りました。
馬場状態は、トーセンバジル向きだったと思いますが、しっかり勝ち切ったことに意味があるでしょう。
2年連続ダービー制覇で勢いに乗るノースヒルズ軍団ですが、今年の牡馬の一番手と評判のティルナノーグもデビュー戦を順当勝ちし、しばらく快進撃は止まりそうにありませんね。
http://www.jbis.or.jp/horse/0001156924/pedigree/
それでは、血統から見ていきましょう。
母バイコースタルは、米英仏で15戦2勝。
祖母オーシャンクイーンは、アメリカで芝9FのG3重賞に勝ちました。
6代母モナーキーは、ラウンドテーブルの全妹にあたります。
母系は、ディープと同じ、英国の名門アロペ牝系。ナシュワン、ラウンドテーブル、オリオールなど、多くの名馬を出しました。
BMSゴーンウエストは、ミスタープロスペクター×セクレタリアトの配合で、3代母ミクストマリッジは、エタン(名種牡馬シャーペンアップの父)の母にあたり、母系は、こちらもアロペ牝系。
(1)ディープ牝系×ディープ牝系×ディープ牝系
当ブログで継続して追いかけているテーマの1つですが、ディープは、自身と同じ母系の馬と相性がよい傾向にあります。
最も頻繁に目にするのは、ラウンドテーブルとオリオールですが、もちろん、ディープと同じ母系出身の馬は、探せばたくさん見つかります。例えば、サンデーの母馬のBMSモンパルナスの血統表の中には、フォックスローという馬が含まれていますが、これは先ほどから名前の出てるアロペの息子になります。
とはいえ、血統表のどこかにディープと同じ牝系の出身馬が含まれているということと、母馬とかBMSとか重要なポジションにある馬がディープ牝系出身ということとでは、当然のことながら、その意味の重さは大きく違ってくるでしょう。
ティルナノーグは、父ディープ、母バイコースタル、BMSゴーンウエストの3頭ともが、同じ牝系の出身で揃えられているという、偶然の一致なのか計算された配合なのかは分かりませんが、ディープ一族どうしの組み合わせですので、相性の悪かろうはずはありません。
実際問題としては、ディープ産駒の場合、こういうケースは前例がないと思われるので、なにかを断言するのは難しいのですが、ディープと自身の牝系出身馬との相性のよさを拡大して考えるなら、大きな効果をもたらす可能性もあるということは指摘しておきたいと思います。
(2)リーディングライトとトレヴ
ティルナノーグに対してのネット上の意見や感想をみると、BMSゴーンウエストに懸念を持たれているかたが多いのには、ちょっと驚かされます。
たしかに、ディープ×ゴーンウエストの配合では、これまでのところ、準オープンのダノンウィスラーあたりが出世頭ですから、これといった大物はまだ出ていません。
しかし、ゴーンウエストは、まがりなりにもミスプロ系の一流種牡馬ですから、何故そこまで心配するのか疑問なところもあります。
例えば、ディープ×ミスプロ×セクレタリアトという配合は、柔らかすぎるんじゃないかという懸念については理解できますし、その点はあとで検討しますが、多くの方々は、そこを心配されているわけではないようです。
ようするに、ゴーンウエストは、G1馬も数多く出してはいるものの、これといえるほどの大物は出ていないし、とくにBMSにまわった時に大物が出にくい、ということのようなのです。つまり、中堅G1馬を量産しているだけで、いかにも大物感に欠ける種牡馬ではないかという心配なのでしょう。
しかし、これも不思議な話で、では、ジェンティルドンナのBMSバートリーニはどうなのか、トーセンラーのBMSリシウスはどうなのか、といったことを考えれば、ゴーンウエストを心配するのは、贅沢な悩みというべきではないでしょうか。
こうした問題については、以前に当ブログで詳しく検討しました。その時の結論は、「種牡馬ディープの面白い特徴として、血統表に二線級の種牡馬の名前があっても、そこで使われている血が一流のものであれば、個々の一流の血のよさを引き出すことが出来る」というものでした。ジェンティルドンナのBMSバートリーニを例として、バートリーニ自体は二流種牡馬だけれど、バートリーニを構成する血は一流のものばかりであり、そういう場合、ディープは、バートリーニを構成する一流の血の良さを引き出す力があるということを見ていきました。
ゴーンウエストもまたしっかりした血で構成されており、そもそもバートリーニのような二流種牡馬でもありません。したがって、心配しすぎであるとあっさり結論づけてもよいのですが、ここでは、もっと違った角度からゴーンウエストの影響について考えてみたいと思います。
リーディングライト
http://www.jbis.or.jp/horse/0001182091/pedigree/
トレヴ
http://www.pedigreequery.com/treve3
前ふりが長くなりましたが、小見出しにあげた、リーディングライトとトレヴについて見ていくことにしましょう。
トレヴは、昨年の凱旋門賞で日本の競馬ファンに忘れがたい印象を残しましたが、リーディングライトのほうは、それほど馴じみがないかもしれません。
リーディングライトは、ティルナノーグの近親で、英セントレジャーとアスコットゴールドCの2つのG1に勝っています。トレヴと同い年の現役バリバリで、現在の欧州の3000m級の長距離では、トップを争う1頭です。
リーディングライトの血統表を見ていただくと、BMSがゴーンウエストであることは、すぐ気付かれるでしょう。さらに、リーディングライトの母ダンスパレードと、ティルナノーグの母バイコースタルとが、4分の3同血の叔母と姪の間柄であることも目につきます。
ゴーンウエストと、バイコースタル&ダンスパレードは、(1)で見たとおり同じ一族であるため、かなりの相性のよさを発揮していると考えるべきでしょう。BMSとしてはさほどの大物を出していないゴーンウエストの、数少ない大物が、バイコースタルの4分の3同血の叔母から出ている意味は大きいと思います。
BMSとしてのゴーンウエストで、リーディングライトと並ぶ大物は、トレヴの父モティヴェーターです。競走馬としては、英ダービーとレーシングポストTの2つのG1に勝ちましたが、なんといっても、種牡馬としてトレヴを出したことで注目されました。
しかし、ここでは、モティヴェーターではなく、娘のトレヴの血統表のほうに目を向けてください。そして、ティルナノーグの血統と比較してみてほしいのです。パッと見では、それほど似た配合のようには思えないかもしれません。ですが、トレヴとティルナノーグの血統表に共通して登場する馬を探してみてください。驚くほど、同じ名前が次々に見つかるのではないでしょうか。ゴーンウエストをはじめとして、リヴァーマン、サドラーズウェルズ≒ヌレイエフ、リファール、ヘイルトゥリーズン、バックパサー、レディビーグッド、カミーニー≒サンルスー、フェオラ(ディープの6代母、モナーキーとオリオールの祖母)など、実に多くの共通の血があるのです。
ティルナノーグ&母バイコースタルと、トレヴやリーディングライトとの配合の共通性は、ゴーンウエストの血の活用について、なにかしらの方向性を示している可能性が高いと思います。産駒に大物感を欠くゴーンウエストから、なんとか配合によって大物を出させるには、どうしたらよいのか。そのヒントが、リーディングライトや、トレヴとその父モティヴェーターの血統表の中に潜んでいるのかもしれません。
現時点では、それ以上のことは言えませんが、(2)の項の最後に、もう1例だけ血統表を見ていただきましょう。
ショウナンアデラ
http://www.jbis.or.jp/horse/0001157731/pedigree/
まだデビュー前のディープ産駒の2歳牝馬です。どういう馬なのかも、まったく分からないわけですが、血統表を見ていただければ、ティルナノーグと非常によく似た配合であることは一目瞭然です。そして、先ほどのように、トレヴの血統表と共通の馬を探してみてください。同じく、多くの共通点が見つかると思います。
もし、ショウナンアデラもそれなりの活躍を見せるようなら、間違いなく、これらの配合に何らかのキーパターンがあるのだと考えられます。ショウナンアデラの名前も、ちょっとだけ頭の片隅にとどめておいてください。
(3)硬さと柔らかさのバランス
上の(2)で少し触れましたが、ディープ×ミスプロ×セクレタリアトの配合は、柔らかすぎるかもしれないという点について検討しておきましょう。
ミスタープロスペクター系は、現代の米国ダート競馬における主流血脈の1つなわけですが、望田潤氏によれば、体質的には、ナスルーラやロイヤルチャージャーの系統同様に柔らかいタイプであるとされています。
祖父ネイティヴダンサーも、父レイズアネイティヴも、いかにもパワフルな重戦車のような馬でしたし、レイズアネイティヴの他の後継馬たち――アリダー、イクスクルーシヴネイティヴ、マジェスティックプリンスなども、レイズアネイティヴ譲りのパワーが売り物です。
なぜ、ミスプロだけが、スマートで柔らかい体質に出たのでしょうか。望田氏によれば、母ゴールドディガーの持つ、ザテトラーク5×6のクロスが前面に出てきたからではないか、とのことでした。ザテトラークは、マムタズマハル(ナスルーラの祖母&ロイヤルチャージャーの3代母)の父です。
ミスタープロスペクター
http://www.sporthorse-data.com/horse/10005075/857/Horse_Mr_Prospector-big.jpg
レイズアネイティヴ
http://www.sporthorse-data.com/horse/100589/519/Horse_Raise_a_Native-_2big.jpg
ネイティヴダンサー
http://i805.photobucket.com/albums/yy340/MUDMONT/RACE%20HORSES/NativeDancer-1954200.jpg
アリダー
http://www.sporthorse-data.com/horse/620900/552/Horse_Alydar-big.jpg
ザテトラーク
http://1.bp.blogspot.com/-bMGAUXKU1KU/TjlaH1LGO_I/AAAAAAAACAI/QgttYZEP63E/s1600/the%2Btetrarch.jpg
ということで、ディープもミスプロもセクレタリアトも柔らかいタイプとすれば、それらに硬さを付与する血のほうはどうでしょうか。
ティルナノーグの祖母オーシャンクイーンに、硬い血がかなりあります。オーシャンクイーンは、ノーザンダンサー3×4で、ラトロワンヌも3本あります。
それでも、全体としては、いくらか柔らかめかもしれませんが、クラシックに全く間に合わないというほどではないと思います。
(4)その他
それ以外で目立つところでは、ハイペリカム(ディープの5代母)、モンパルナス(サンデーの母のBMS)、ミクストマリッジ(ゴーンウエストの3代母)、フォルリ(ヌレイエフのBMS)の組み合わせのクロス(ハイぺリオン、サンインロー、アロぺ(ディープの8代母)が共通)でしょう。この組み合わせのクロスは、当ブログではお馴じみですが、ハイインローをベースに、ディープ牝系の血も巻き込んでいるところがポイント。ハイペリカムとミクストマリッジは、(1)の延長線上にあるものですが、モンパルナスとフォルリは、別のルートですから、さらにもう2本ディープ牝系の血が入りこんでいることになります。
なお、組み合わせのクロスとは、血量的に相似クロスほどの共通性ではないけれども、お互いが何頭か共通の祖先を持っている関係のことで、大雑把にいえば「弱い相似クロス」のようなものです。
(5)まとめ
ティルナノーグの配合は、硬い血と柔らかい血、欧州血脈と米国血脈、ナスキロラトロとハイインローが、いくらか多い少ないはあるにせよ、バランスよく含まれています。
しかし、この配合のポイントとなる(1)と(2)については、未解明な部分があまりにも多すぎます。一番大事な部分がブラックボックスになっているため、はっきりと何かを言うことが極めて難しい状況なのです。
しかし、あえて言うなら、(1)も(2)も上手く機能すれば特大のホームランになる可能性があると思います。当たり外れはありそうですが、夢のある魅力的な配合ではないでしょうか。
http://uma-jin.net/pc/images/pc_pog_column_100055.jpg
引き続き、馬体のほうも見ていきましょう。
前にも触れたのですが、非常に父のディープによく似た馬体だと思います。毎年POGシーズンには大量の2歳馬の画像を見ることになるわけですが、ディープ産駒がデビューして今年で5世代目となり、ずいぶん画像のストックも増えてきました。過去5世代分のディープ産駒のPOG資料画像の中で、もっとも父ディープに似ているものはと尋ねられたら、個人的には、ティルナノーグのリンク先の画像をあげたいと思います。
これも以前に触れましたが、元騎手の安藤勝己氏によれば、ディープ産駒は、かならずしも父親似が走るとは限らないとのことですが、ここまで似ていると、どうしても高く評価せざるをえません。
今年のデイープ2歳産駒の馬体評価リストでは、牡馬の3位に取りあげました。
そこまでディープに似ているのかどうか、是非ご自身の目で比較してみてください。
ディープインパクト(皐月賞)
https://livedoor.4.blogimg.jp/jrdbjp/imgs/2/e/2e0bbb10.gif
最後に今後の展望について。
早い時期に新馬勝ちできたので、このあとはいったん夏休みで、復帰は秋ということになります。
個人的には、ディープの2歳産駒を夏場にガンガン使うのは反対なので、理想的なローテーションが組めそうです。
ともかく、前評判どおりの力を見せてくれたことは確かで、一足先に勝ち上がったアヴニールマルシェともども、クラシックを狙う存在になってくれるのではないかと期待しています。
例によっての例のごとくのダイジェスト版。
血統……父・母・BMSが同じディープ牝系ということと、トレヴとの類似性に注目。
馬体……ディープそっくり。