今年の2歳戦のディープ牡馬の勝ち上がり一番手は、サトノクロノスでした。

https://www.youtube.com/watch?v=FvmeJsnSK-Y
http://db.netkeiba.com/race/201605030605/

好発から2~3番手で運び、直線で逃げ馬をとらえると、そのまま押し切る危な気ない完勝でした。正直、メンバーにも恵まれましたが、調教もそれほど速いところはやっておらず、デビュー戦としては申し分ないレースだったでしょう。
気になる点としては、POG本などに掲載された馬体重は、480キロということでしたが、レースでは、434キロでの出走となったこと。牧場からトレセンを経てレース出走となると、30キロくらいウエイトが落ちるのは普通ですが、46キロともなると、輸送減り(栗東→府中)の可能性も含めて、ちょっと注意しておくべきかもしれません。
なお、レース後、陣営より次走の予定のアナウンスがあり、中京2歳Sか新潟2歳Sを目標にして調整されるようです。

http://www.jbis.or.jp/horse/0001185229/pedigree/

それでは、血統のほうから見ていきましょう。
母トゥーアイテムリミットは、アメリカのダートで重賞4勝。G1でも2着2回3着2回の実績があります。サトノクロノスの兄姉たちは8頭いますが、活躍馬といえるのは、米国時代に出したアリーナエルヴィラ(重賞2勝)くらいでしょうか。
4代母ブルーカヌーは、直仔に大物はいませんが、子孫からコジーン、テイエムオペラオー、ブルーメンブラッドなどが出ました。
5代母ポーティジは、競走馬としては凡庸でしたが、繁殖牝馬として一族の勢力を大きく広げました。とくに、孫のフォールアスペンは、20世紀を代表する名繁殖牝馬の1頭です。
母系は、ドバイミレニアム、ティンバーカントリー、コジーンなどの出た、アメリカの名門オーディエンス牝系。日本では、テイエムオペラオー、ブルーメンブラッド、レジネッタなどが出ています。

(1)サンデー×ミスプロ×ウォーアドミラル×ラトロワンヌ
父サンデー系×母父ミスプロ系の配合の場合、望田潤氏によれば、ウォーアドミラルとラトロワンヌの血を持つと成功しやすいようです。サンデー系もミスプロ系も、基本的には柔らかい体質なので、硬めのアメリカンな馬力型の血と相性がよいという理屈です。
サトノクロノスは、この基本パターンに当てはまっています。

(2)母系の配合の流れ
母トゥーアイテムリミットの血統は、一族の代々の配合の流れから考えていくと判りやすいでしょう。

ポーティジ(5代母)
http://www.jbis.or.jp/horse/0000388461/pedigree/

まず、一族の繁栄の基盤をつくったポーティジの配合を確認しておきます。父はウォーアドミラルで、マンノウォーマッドハッター2×4の4分の3同血クロスが配合の核となっています。このポーティジの配合を活かすことが、重要なポイントになってくるようです。

ブルーカヌー(4代母)
http://www.jbis.or.jp/horse/0000386295/pedigree/

ブルーカヌーの血統は、ポーティジの配合を継続して、フライアーロックマンノウォーマッドハッター4×3・5の相似クロス(ロックサンド、フェアリーゴールドが共通)が配合の核となっていますが、見方によっては、ブラックカールウォーアドミラルの組み合わせのクロス(ロックサンド、フェアリーゴールド、ベンブラッシュ、フェロークラフトスペンドスリフトが共通)と考えることもできます。なお、組み合わせのクロスとは、相似クロスほど共通する血が多いわけではないものの、いくつかの重要な血を共有する関係のことで、大雑把にいえば「弱い相似クロス」のようなものです。

サラトガフリート(3代母)
http://www.jbis.or.jp/horse/0000421133/pedigree/

サラトガフリートには、これといった特徴的なクロスはなく、アウトブリードに近い配合ですが、父サーゲイロードはディープの側にもあるので、サトノクロノスとして、サーゲイロード6×4のクロスが生じています。

スパウォーニング(祖母)
http://www.jbis.or.jp/horse/0000398082/pedigree/

なんといっても、ターントゥ4×3のクロスが目につきます。ターントゥは、サンデーの祖父でもあるので、サトノクロノスとしては、ターントゥ5×6・5となります。また、シャットアウトウォーアドミラルの組み合わせのクロス(オーヴァルマンノウォー、ベンブラッシュ、スペアミント、ドミノが共通)も、地味ですが重要でしょう。

トゥーアイテムリミット
http://www.jbis.or.jp/horse/0000621330/pedigree/

母馬のトゥーアイテムリミットまで辿りつきました。父のミスプロの血と、ナスキロラトロがベースとなっています。ナスキロラトロとは、望田潤氏の造語で、ナスルーラ×プリンスキロ×ラトロワンヌの相性のよい掛け合わせのことです。ナスルーラのスピード、プリンスキロの持久力、ラトロワンヌのパワーが、抜群の相性となります。
トゥーアイテムリミットの配合では、まず、ウォーアドミラル5×5ラトロワンヌ7×7が重要です。この2つの血により、(1)の配合パターンが生じるわけです。
しかし、ウォーアドミラルのクロスの重要性は、それだけではありません。一族の発展の基盤となったポーティジの父ウォーアドミラルの血を強化することは、この母系から大物を生み出すための配合的セオリーとなっているようです。いくつか代表的な例を見ていただきましょう。

ドバイミレニアム
http://www.jbis.or.jp/horse/0000372664/pedigree/
ティンバーカントリー
http://www.jbis.or.jp/horse/0000333901/pedigree/
ハマス
http://www.jbis.or.jp/horse/0000355892/pedigree/
インテロ
http://www.jbis.or.jp/horse/0001194175/pedigree/
レジネッタ
http://www.jbis.or.jp/horse/0000887443/pedigree/

一族の最強馬といえば、ドバイミレニアムですが、ウォーアドミラル5×7・5のクロスがあります。
ティンバーカントリーは、G1戦3勝の大物競走馬で、ウォーアドミラル5×6・4です。
ディキシーユニオンは、米国でG1戦2勝。ウォーアドミラル6×6・4です。
ハマスは、ジュライCの勝ち馬で、ウォーアドミラル6×6・4。
インテロは、3年前の仏ダービー馬ですから、かなり最近の馬ですが、ウォーアドミラル7×8・7・10・8。
日本の馬の例として、桜花賞馬のレジネッタをあげておきましょう。エイトサーティ≒ウォーアドミラル5×9・7。

トムロルフ
http://www.jbis.or.jp/horse/0000334546/pedigree/
クイーンズサクリー
http://www.jbis.or.jp/horse/0000390763/pedigree/

その他では、リボー5×5も目につきます。リボーの血が含まれているのは、上にリンクを貼ったトムロルフとクイーンズサクリーですが、それぞれ、ディープとの間にクロスが発生しています。ポカホンタス(トムロルフの母)5×6と、コスマー(クイーンズサクリーの母)4×6ですね。
ポカホンタスのクロス(または相似クロス)を持つ、ディープ産駒の活躍馬としては、ディープブリランテ、ミッキークイーン、ヴィルシーナ、ミッキーアイル、マルセリーナ、フィエロなどで、定番のクロスといってよいでしょう。
コスマーは、ヘイローの母なので、ヘイローのクロスに付随してクロスが生じるケースは珍しくありませんが、片方がヘイローから切り離された形でのクロスは珍しく、これといった成功例はまだありません。しかしながら、先ほど見たように、祖母スパウォーニングには、ヘイローの祖父ターントゥのクロスがあり、そこへコスマーということですから、ヘイローの配合的な要素が勢揃いしていることになり、サトノクロノスには、疑似的にヘイローのクロスらしきものが生じていると考えることも出来そうです。
そして、サトノクロノスのポカホンタスのクロスとコスマーのクロスが、母馬のリボーのクロスと結び付けられていることにより、どのような効果がもたらされるかは、現時点では判然としませんが、なかなか面白い配合であることは確かでしょう。

(3)まとめ
サトノクロノスの配合は、一見しただけでは、(1)のパターンが目につくだけですが、母系の流れを代々確認していくと、なかなか細かい工夫が施されていることが浮かび上がってきます。
問題は、そうした地味な工夫が実際に効果を発揮するのか、それとも埋もれたまま明確には発現しないのか、ということになるでしょう。
デビュー戦の内容を見るかぎり、コスマーのクロスをベースにした、疑似的なヘイローのクロスが前面に出ているように思われます。そうなると、ヘイローとミスプロが中心的な役割を発揮していくことになり、器用ではあるものの、重賞などの大きなレースでは、ハイペリオンや欧州血脈の不足が心配の種となりそうです。
クラシック路線に乗るためには、例えば、母馬のリボーのクロスによる爆発力が表に出てくるとか、ハイペリオン不足を補うようなプラスアルファが必要になってくるでしょう。

引き続き、馬体のほうも検討していきたいのですが、ネット上には良い画像が無いようです。また、各種POG本にも殆んど掲載されず、自分の知る範囲では、ギャロップの丸ごとPOGに載っているくらいでしょうか。
その画像を見るかぎりでは、がっしりしたマイラー体型という印象ですが、今回はずいぶん痩せてスリムな状態で出走してきたので、ちょっと本来の体型がどういったものか掴みにくい現状です。
もっと新しい画像が入手できたら、その時に再検討したいと思います。

最後に、今後の展望について。
今回の新馬戦は、思ったより仕上がったので、とりあえず使ってみるかといった感じの出走過程だったように思われます。相手関係も楽でしたし、軽く一回りしたら勝っていたという、この時期の新馬戦によく見かける光景でした。
というわけで、今回のレースだけでは何とも言えないというのが正直なところで、次走の中京2歳Sなり新潟2歳Sなりのレース内容を見れば、かなりのことが分かってくるでしょう。
今回のレースだけで無理やりコメントするなら、器用な機動力タイプだろうということになりますが、まだあれこれ決めつけないほうが無難のように思います。