明日の東京スポーツ杯2歳Sにディープ産駒が3頭も出走を予定していますので、取りあげておくことにしましょう。
まず、アルジャンナから。

https://www.youtube.com/watch?v=ilqzZiY-918
https://db.netkeiba.com/race/201909040205/

POGではかなりの人気が予想されていましたが、直前になってオーナー交代という事態が発生したため、新馬戦開始までが締切のルールのPOGでは、指名が伸び悩んだようです。しかし、入厩後に好時計を連発すると、後出しオーケイのメディア系POGでは指名数が急増、netkeibaでは現時点で全体3位、ディープ牡馬産駒に限れば、堂々のトップに躍り出ました。
しかし、ここで第2のアクシデントとして、デビュー予定の小倉の新馬戦で、確率は低かったのですが、まさかの除外となり、いったん仕切り直しとなります。
改めて、阪神開幕週でのデビューとなりましたが、今度は他陣営が怖れをなして逃げ出し、レース成立ぎりぎりの5頭立てとなってしまいました。レース内容も、最後は流しての完勝でしたが、このメンバー構成ならば、リアアメリアのデビュー戦のような圧勝を期待した向きもあったでしょう。その点については、レース後すぐには明らかにされなかったのですが、2ヶ月くらい経ってから、「初戦は熱中症気味で持てる能力を発揮できなかった」というコメントが池江師から出されました。小倉デビューが延期になり、更にここも回避ということでは、今後のスケジュールが大幅に狂いますし、このメンバー構成なら負けることはないだろうということもあって、出走に踏み切ったものと思われます。
というわけで、ここまでの道のりは順調とは言い難いものでしたし、実際のところ、どれほどの能力があるのかも判然とせず、今回の東京スポーツ杯2歳Sが、試金石の一戦となるでしょう。デビュー前の調教では好時計を連発していたアルジャンナですが、一転して今回は控えめな調教に終始し、テンションが上がらないことに重点を置いているようです。このメンバーを相手に勝つようなら、前評判どおりのクラシック候補ということになりますが、さてどうなるでしょうか。

https://www.jbis.or.jp/horse/0001237526/pedigree/

それでは、血統のほうから見ていきます。
母コンドコマンドは、米8戦5勝。米G1・スピナウェイS(ダート7F、2歳牝馬限定)では、衝撃の13馬身半差の圧勝劇を披露しました。産駒は、アルジャンナが初仔。
祖母イヤーリーリポートは、米G2を3勝しています。
5代母フィスカルファンは、自身は未出走でしたが、4分の3弟のアゲイントゥモローが、伊2000ギニー(現在はG3まで降格されていますが、当時はれっきとしたG1でした)に勝っています。
母系は、ラムタラ、ボスシャラム、シーロなどを出した、スタチュート牝系。1980年代後半に急にブレイクしましたが、それ以前は平凡な系統でした。日本では、重賞勝ち馬は出ているのですが、まだG1馬は出ていません。

(1)母父ティズワンダフル
ティズワンダフルは、種牡馬としては、コンドコマンドを出しただけの一発屋でしたが、ディープ産駒の母父としては、なかなか興味深い配合です。

ティズワンダフル(アルジャンナの母父)
https://www.jbis.or.jp/horse/0001031113/pedigree/

ティズワンダフルの母父ヘネシーは、ストームキャット産駒ですから、ディープ×ティズワンダフルの配合は、望田潤氏の指摘されている、ディープ×ストームキャット×ウォーレリックの成功パターンに当てはまっています。アルジャンナの母コンドコマンドには、エイトサーティの血があるので、ティズワンダフルの持つ、ウォーレリックエイトサーティの相似クロスを継続していることになります。
また、ティズワンダフルには、リファールの血があるので、アルジャンナとしては、リファール4×6のクロスとなります。さらに、ティズワンダフルには、ミスプロの血もあるので、リファールのクロスが重苦しくなることもないでしょう。
それに加えて、ヘネシーの母父父母アービネラは、ディープの祖母バークレアと組み合わせのクロス(ドナテロ、ハイぺリオン+ローズレッド、フェアトライアル~サンインロー、テディが共通)をなします。
ディープ産駒の母父としてのティズワンダフルは、1頭で多くの成功パターンを兼備する注目すべき配合と言えるでしょう。

マイグッドネス(ダノンキグリーの母)
https://www.jbis.or.jp/horse/0001157818/pedigree/
フォークロア(コントレイルの祖母)
https://www.jbis.or.jp/horse/0000906032/pedigree/

ティズワンダフルの配合は、ダノンキグリーの母マイグッドネスや、同じく明日の東京スポーツ杯2歳Sに出走予定のコントレイルの祖母フォークロアと共通点が多いことも要注目です。
マイグッドネスとは、ストームキャット、リローンチ、リファール、レイズアネイティヴが共通、フォークロアとは、ティズナウ、ストームキャット、ミスプロが共通しています。
同じような配合パターンの成功例が続いているということは、それだけ再現性が高いと言えそうですね。

(2)コンドコマンドの配合
母コンドコマンドの配合の特徴としては、騒々しさを感じるほどの多重クロスが指摘できそうです。

コンドコマンド
https://www.jbis.or.jp/horse/0001222386/pedigree/

パッと目につくのは、シアトルスルー5×3・5のクロスですが、レイズアネイティヴ5×5(あるいは、ミスプロ≒アリダー4×4)のクロスや、ノーザンダンサー6・6・6×6・5・6のクロス(合計6本です)も強力です。ノーザンダンサー絡みでは、ストームバード≒ニジンスキー5×5の相似クロスと見なすことも可能でしょう。この相似クロスは、ラキシス&サトノアラジン姉弟の母マジックストームで有名ですね(ストームバード≒ニジンスキー2×4)。
こうした多彩なクロスが、コンドコマンドの配合的な活力となっているのは明白ですが、アルジャンナとして考えると、5代まではアウトクロス、6代までだと、リファール4×6、ポカホンタスリヴァーレディ6×7・6といった薄めのクロスが確認できます。
クロスのうるさいコンドコマンドに対して、適度に距離を取ってクロスのやかましさを緩和しつつ、まったくのアウトクロスにはしないという、よく考えられた配合です。また、ディープという種牡馬は、クロスのきつい繁殖牝馬を得意としているので、母馬のクロスの活力を上手く引き出すことが期待できるでしょう。

タピッツフライ(グランアレグリアの母)
https://www.jbis.or.jp/horse/0001115215/pedigree/

コンドコマンドの配合を見て思い浮かんだのは、グランアレグリアの母タピッツフライです。シアトルスルーは1本しかありませんが、ボールドルーラー7・6・7×6やラウンドテーブル≒モナーキー7・6×5(コンドコマンドでは、ラウンドテーブル≒モナーキー8・6×6・8)があり、、ミスプロ4・5×5、ニジンスキー6・4×4(ノーザンダンサー7・5×5)など、やはりクロスが騒々しいタイプで、クロスの種類も、コンドコマンドと類似しています。
こうしたタイプの繁殖牝馬は、やはりディープと合うということですね。
アルジャンナとグランアレグリアということでも、バークレア絡みの組み合わせのクロス(アルジャンナはアービネラ、グランアレグリアはオリオール)や、フェオラ(ディープの6代母、オリオール&ラウンドテーブルモナーキーの祖母)の多重クロスといった共通点があります。
なお、ディープとシアトルスルーの相性が悪いといった大昔の情報を、いまだに信じているかたがいらっしゃるようですが、古くなってしまったPOGネタは、きちんとアップデートしておきましょう。

(3)まとめ
アルジャンナの配合は、ディープ×ストームキャット×ウォーレリックや、リファールのクロスといった成功パターンをベースに、母コンドコマンドのクロスの活力を取り込んだ配合です。
以前、ダノンキングリーを扱ったさいにも触れたのですが、ディープ×ストームキャットは外回り向き、リファールのクロスは内回り向きという、相反する要素が同居する場合、どちらが強く出るかは、慎重に見きわめる必要があります。ダノンキングリーの場合、いまだに二刀流を継続している感じですが、アルジャンナがどうなるかも要注目でしょう。
それはともかく、アルジャンナの配合は、数多くの成功パターンを含み、(1)や(2)で見たとおり、再現性も高そうです。しいて問題点を指摘するなら、母馬のクロスのきつさは、気性のうるささとして産駒に遺伝する可能性があるので、そのあたりは気を付けたいところですね。

https://i.daily.jp/horse/toranomaki1/2019/05/03/Images/d_12296914.jpg

引き続き、馬体のほうも見ていきましょう。
母馬のシアトルスルーの影響からでしょうか、じゅうぶんな胴伸びがあり、いかにも見栄えのする好馬体です。
以前にもちょっと触れたと思うのですが、POG本などでは、あまり写りのよくない画像が掲載されているケースが目につき、この馬のことを寸の詰まったがっちりした体型と誤解されているかたもおられるようです。しかし、これはカメラマンのポジション取りの問題で、悪い例としてリンクした画像は、馬の斜め後ろから撮影せざるをえなくなった(=ポジション取りに失敗した)ため、胴の寸が詰まって見えてしまうというわけですね(合同取材という現状では、大勢のカメラマンが1頭の馬に群がることになるので、撮影側の技量ということよりも、運の良し悪しという側面が大きいのでしょうが)。
今年のディープの2歳産駒の馬体評価リストでは、牡馬の1位に推しました。

最後に、今後の展望について。
デビュー前の調教時計は、夏場のディープ産駒の2歳馬としては、かつてお目にかかったことのない水準のもので、取材陣が騒然となったのもうなづけるところです。
抜群の好馬体からも、その素質の高さは疑いようがないと思いますが、あとは、今回のメンバー相手にどうのようなレースを見せてくれるかでしょう。楽勝するようなら、一躍、クラシック戦線の中心となりますが、気性の難しさを見せるようだと、グランアレグリアと似たような問題が生じてきます。どちらに転ぶのか、その中間は無さそうだと考えているのですが、もちろん、前者であることを期待しています。